泣いたら、泣くから。
◆ ◆ ◆
一花の声が聞こえなくなった。
"友達"への電話が済んだのだろう、俺は部屋のドアを叩いた。
返事はなかった。
「入るぞ」
そろりと中へはいると一花は浴衣姿のままベッドで寝息を立てていた。
手のひらにのった携帯は開いたままになっていた。
電話を切ってそのまま寝てしまったのだろう。
「お母さん、一花を着替えさせてやってくれ」
――そう言おうとベッドから離れた、そのとき。
背後から一花のでない声がして思わず肩が震えた。
なんだろうと首を傾げ肩越しに一花を見――俺は目を疑った。
電話が繋がっていたのだ。
それだけでなく、開きっぱなしの画面に信じられない文字を見つけたのだ。
即座にしゃがみ、そっと一花の手から携帯電話を抜き取った。
言葉を失った。
「……一花ちゃん? どうしたんだい、一花ちゃん!?」
携帯が小さく震え、スピーカーから流れてきたのは慌てる恭介の声だった。
なぜ恭介がこの携帯の番号を知っている? 教えたのか?
それよりどうして一花が恭介と話していた?
わけのわからない現状に狼狽えていると、恭介はさらに言った。
「――――――おい、一花!」
混乱の極致に達した。どうすればよいかわからず、とっさに電話を切った。
浅く呼吸を繰り返す一花を見下ろし、ふと携帯を持っていたほうではない手に握られた牡丹の髪飾りに目が止まった。
……出かけたとき、あんなものはどこにも身につけてはいなかった。