泣いたら、泣くから。
一章-2
患者の波がおさまりだす夕暮れ少し前。
診療を10分足らずで終えた老齢患者たちが待合室でおしゃべりに夢中になっているのをぼんやりと聞きながら、わたしは昨日のことを思い出していた。
『私、叔父さんのことが――――――好き』
なぜ、わたしはあのときなにも言えなかったのだろう。
あのあとすぐ姪が帰ってしまったこともある。が、どうしてだろう……言葉が浮かばなかったわけでもない。
「ありがとう」「嬉しいよ」――子供の扱いは慣れているつもりだった。
小児科が近くにないため、この医院には小学生も多く訪れる。
彼らと姪の言うそれに、なんら違いはないはずなのに……
「昨日のは、いったい何だったんだ……」
姪の突然の告白。
そして。
なにも言えず、ただ固まってしまったわたし。
……おかしい。
わたしはどうしてしまったんだ。