泣いたら、泣くから。

 実を言うと、これは以前、叔父の書斎から内緒で持ってきた本なのだ。
 遊びに行った日たまたま書斎のドアが開いていて、覗いたすぐ先に文庫本の山を見つけた。そばに紐があったのでまとめて捨てるのだろうなと判断した私はその中から興味を引いた本をこっそり拝借してきたのだ。

 咲希が言うようにはじめは私もなんだこの堅苦しいのと思い何度も挫折しかけた。
 だが、読み進めるうちにぐいぐい中身に引きこまれて気づけばもう三回も読んでしまった。

 

 今晩も私はこれを読んでいるだろう。見回りの看護士たちの目を盗みながら。


 眠気が訪れるまで。
 夜が更けるまで。
 


 ……朝日が昇るまで……いつまでも――。



 
 そういえば、と近くにあったイスを引き寄せ咲希は切り出した。


「そういえばこの間……体育祭の前の日に、一花の叔父さんが来てたよ」
「ええっ!? どこに……まさか学校!?」
「そう」
「ど、どどどうして」


 そこで咲希はにやりとして肘をついた。手にアゴを乗せながら続ける。


「あんたに会いに来たんだよ」


 瞬間、心臓が止まるかと思った。

 叔父が私に会いに来た?
 なぜ? どうして?
 
 はっと祭の夜を思い出す。

 
 電話を途中で切ったことを気にしていたのだろうか――?


 急に苦しみだしたあげく電話を勝手に中断した。

 叔父の性格上心配しないわけがないのだ。


 間違いない……、叔父は私の様子を見に学校まで行ってくれたのだ。


 ――………叔父さん。

 
 心配されるのは、嬉しい。嬉しすぎて胸が破裂しそうなほどだ。
 だが、
 今はそれ以上に胸をざわつかせる要因が私の中にあった。

 声を落とし、私は咲希に訊く。


「叔父さんに私のこと、言ってないよね……?」 
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