泣いたら、泣くから。
自動ドアをくぐるとそのままエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターに乗っている手持ちぶさたな時間、人はなんとなく視線を上げて電光表示を見つめる。
わたしもそうだった。
見つめながら、しかし胸の奥はうるさいほどどくどくと高鳴っていた。静かな空間の中、周りに漏れ聞こえてしまうのではないかと心配したほど。
――どうして気づかなったのだろう……。
具合が悪く、学校も休み、家にもいない――ともなれば考えられる選択肢に必ず上がるはずの入院という項目がわたしの中にかすかにも浮かばなかった。
たぶん、……考えないようにしていたのだと思う。
真由が死んだ場所だから。
思い出すのが怖かったから。
避けていたんだ。
見舞いに来たとき何度も見た、見慣れてしまった遠くなる地上の景色。
とっさに目を背けかぶりをふった。
また来ることになるなんて。
ここはわたしが、真由を………妻を…………――。
音がしてエレベーターが止まり、廊下に出るとナースステーションに早足で近づいた。
「すいません、中澤一花さんの病室はどこですか」
「失礼ですがご関係は」
「叔父です」
「少々お待ちください」
じれったい気持ちを押し殺し調べる看護士を待つ。そのとき。
不意に肩を叩かれてばっと首を捻った。「――一花ちゃん!?……………あっ!」
目の前の男と目が合い、息をのんだ。
「よう。恭介」
――……に、兄さん。