泣いたら、泣くから。


 いつもどおり、言えるはずだった。
 ありがとうと平常心で――言えるはずだった。それなのに。

 喉まで出かけた言葉を、本能が制したのだ。
 適当に返してはいけないと、わたしの意思ではないなにかが流れを止めた。

 結果、わたしは茫然と立ち尽くす羽目になったのである。


『好き』


 その意味を、わたしはもちろん家族への思いやりの愛として受け止めた。
 というより、それ意外に受け止めようがないのだが。
 
 昨日は、妻を亡くしたわたしを慰めたかったのだろう、だからあんなことを言ってくれたのだ。姪は優しい子だ――そういうことで落ち着いた。


 ――落ち着いた、ものの。

 思い出せば思い出すほど、わたしを見上げる姪の目はまがうことなく女のそれだ。
 鋭い光を宿す、本気の女の眼。


 どうしてあんな表情をわたしに向けたのだろう……


 するとそこで、不意にわたしの中にある考えが浮かんだ。

 ……まさか――。



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