泣いたら、泣くから。
駆ける足音が近づいてきて直後、割り込んだ細い指が兄の手首を掴んだ。「やめて! 叔父さんに乱暴しないで!」
「一花、わかってるのか!? こいつのせいでおまえは苦しい思いをしたんだぞ!」
「わかってないのは父さんのほうよ! 早く叔父さんを離して!」
涙目になりながら兄を睨み付ける姪をぼやける視界の中で見た。
すこし痩せたように思えた。
「一花!」
「早く離して! 叔父さんを傷つけないで!!」
ようやく解放された瞬間、肺へどっと冷たい空気が流れ込み、温度の上がっていた場所が急激に冷え激しくむせた。
よろめくわたしを支えつつ兄から庇うように前に立った姪の顔は怒りに震えていた。
父親と娘の間に火花が散る。
姪を追いかけてきた春乃が兄の腕を掴んだ。「やめてお父さん!」
「おまえは何とも思わないのか! 恭介が一花を苦しめたんだぞ!」
「だとしても場をわきまえてください。患者さんが驚くでしょ」
「……兄さん、春乃さん。ちゃんと話します、から……。わたしは――」
そのとき。わたしの手を姪の手が制した。
「叔父さんはなにも悪くない。祭に誘ったのは私なの。私が無理矢理誘ったの」
兄と春乃の目が見開かれた。「……どういうことだ、一花」
「私は………――――――」
止める間を姪は与えてくれなかった。
わたしが口を開く前にすでに姪は息を吸っていた。
「叔父さんのことが好きなの。だから一緒に祭に行ったの」