泣いたら、泣くから。
二章-9
妻、真由の49日を迎えた。
外での昼食会を終え、家に親戚が集まった。
その中にはもちろん、本家中澤家も含まれていた。
兄の俊介、義姉の春乃、そして姪の一花。
……けれど。
やはりというか予想どおり、一花は姿を見せなかった。
一花ばかりか春乃も顔を出しには来なかった。
来られない状況というわけではない。
手術は成功した。
姪は今、病院を退院して家にいる。
監禁されているのだ。
わたしから遠ざけるために、二度と近づけないようにするために。
◆
数日前、わたしは姪の見舞いのため病院へ足を運んだ。
しかし、
『なにしに来た。入れるとでも思ってるのか』
病室の前で兄に睨み付けられた。
殴られはしなかった。
一花に恭介を傷つければ一生許さないと言われたため手を上げることだけは我慢する。だが、いつまでも居座るつもりなら容赦はしないと兄は冷たく言い放った。
毎日通ったが一日として会わせてもらえる日はなかった。
そして何日か経ったある日、同じ時間に病院に行くと病室のネームプレートが消えていたのでどうしたのだろうとナースに尋ねると退院したと教えられた。
◆
春乃という監視役をつけて姪を家の奥に閉じこめ、兄だけがスーツを着てわたしの家に来た。
親戚が多く集まるためお互いきちんと境界線を守って兄弟らしく振る舞った。
二人とも若干頬が引きつっていたが周りには気づかれていないようだ。
けれどひとときも安心することは出来ず、どきどきのまま席は進んだ。
夕暮れどきようやくお開きとなり、わたしは客人たちを見送るため外に出た。
べろべろに酔いつぶれた者を両脇で支える二人のうちの一人が振り返り手を振った。
「そんじゃあ俺たちはこれで。ああ気にすんな、俊ちゃんのことは責任持って俺たちが連れて帰るからさ」
「すいません。よろしくお願いします」
「気にすんなって。またな」
引きずられるように歩いていく兄。背中が丸まっていた。