泣いたら、泣くから。


 しがみつく姪の肩を掴んだ。「……一花ちゃん」



「どうして来たんだ」
「会いたかったから」
「……駄目だよ。こんな時間に」



 引き離そうと手に力を込めた。
 けれど、姪は首を振って拒んでくる。



「私が苦しめてるんでしょ。叔父さんもお父さんもお母さんも私が傷つけてるんだよね」


 わかってるんだよ。
 わかってるけど、どうしたらいいかわからないんだよ。

 姪はそっとわたしから離れると俯いたまま言った。「……すき」



「好き。好きなの叔父さん。ねえ――」
「もう、やめてくれ一花ちゃん」


 言えば言うだけ、姪自身が苦しくなるだけだ。


 姪の気持ちは痛いほど伝わってくる。 
 けれど、それをわたしは受け止められない。

 だってわたしは――わたしは姪の叔父なのだから。


 姪の目から光るなにかが落ちて、すと頬に触れるとそこは濡れていた。姪は泣いていた。


「一花ちゃん顔……」
「叔父さんが泣くなら、私も泣くよ」


 叔父さんが苦しいときは、私も苦しいんだよ。


 そう言うと、わたしの手を掴んで姪はそのまま上体を前に倒した。
 胸に姪の額が当たる。




「私が一番、叔父さんのことを想ってる」




 心臓がどくんと大きく跳ねた。

 その瞬間、わたしはとっさに姪を引きはがした。「なに、言ってるんだ」



「叔母さんにだって負けないくらい叔父さんが好き。ずっと、ずっと前から叔父さんだけを想ってる」
「いちかちゃ……っ!?」



 
 不意に、頬にやわらかいものが触れた。




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