泣いたら、泣くから。
離れていく姪の顔は、笑っていた。
けれど、それが辛さを隠すためだということはすぐにわかった。
わたしから離れた姪の表情は闇に消えた。
彼女はわたしの前にいる。それはわかるのに、その顔は真っ黒に塗りつぶされてなにも見えない。
姪の唇が触れた頬に手を当てる。
触れただけの頬へのキス。
いきなりのことでわたしはなにも言えなくなっていた。
もはや上手く思考が回らない。
それほど飲んだわけでもないのに。
「……今日はごめん。もう帰るね」
姪が立ち上がったので反射的にわたしも腰を上げた。「一花ちゃん」
「一人で帰るのは危ないよ。わたしが送る」
「いいよ」
「だけど」
「いいの。だって、一緒にいたら離れたくなくなっちゃうでしょ」
「でももう夜中だし」
さっと、近寄るわたしの前に手をかざした。「だいじょうぶ」
「ちゃんと帰る。帰ったら……そうだなぁ……メールする。うん、メールするから」
「帰る道が心配だよ」
「だったら随時報告するから。それなら安心でしょ」
「け、けど……」
「私帰るね。 ……この間はお見舞いありがとう。ちゃんと言えなかったから」
それじゃ……――。
廊下に出た途端、姪はすっぽり闇に包まれた。
足音が離れていく。
仏間に立ち尽くしたまま、ドアが閉まる音を小さく聞いた。
ポケットから携帯電話を取り出して真っ黒なサブウィンドウを見つめていると――突然光って、手紙マークが現れた。
『今、通りに出ました。今日は三日月なんだね』
添付された画像には夜空に浮かぶ細長い月が映っていた。
それからも姪のメールは続いた。
6通目でようやく家に着いたと報せが届き、最後に、
『おやすみ』
と書かれてあった。
そして、メールは来なくなった。