泣いたら、泣くから。
男は単刀直入に聞いてきた。
「俺がどうしておまえをこんな人気のいない場所に呼んだかわかるか」
わかるわけない。
そう返そうと思ったが、男の口調はいつもと違って怒気が混ざっていたので、変なことを言えばますます機嫌を損ねさせると思い、なにも言わず、ただ黙って首を振った。
すると男は「まあそうだよな」と浅く笑って額をぽりぽりとかいてから顔を上げた。
私は思わず目を見開いた。
男の、口もとは笑っていたけれど、目はまったく笑っていなかった。
息を飲んで次を待つ。
しかし、それから男はぴくりとも動かず、私を見返すばかりだった。
息が詰まった。
男の瞳は異様なほどぎらついていて、視線を返すのがやっとだった。いっそ、背けてしまいたいと思うほどに。
男はなおも動かない。
だったらと――今の状況に耐えきれなくなった私はこの張り詰めた空気をなんとかしようと先に口を開いた。
「人に聞かれたら、まずいことなの……?」
恐る恐るたずねると、一瞬で男の眉間にしわがよった。
びくっとして、反射的に一歩身を引いた。
怖い、と思った。
男の目からは今まで一度も感じたことのない強い憎悪が伝わってきた。
真っ直ぐ私に向けられる禍々しい負の感情。
――いますぐ彼から離れなければ……!
本能が全身に訴えかける。
私はふるえる膝を叱咤してうしろへと足を引きずった。