泣いたら、泣くから。
そのままじりじりと後じさっていると不意に、カンと、固くて細いなにかにぶつかった――直後、びゅうと強い風が吹き上がり反射的にぎゅっと目を閉じた。
慌ててスカートを押さえ、振りかえると、背中に触れていたのは屋上の柵である鉄の棒だった。
四階から見るグラウンドはあまりに遠かった。生徒が豆粒のように小さい。思わずごくりとつばをのんだ。
「……姉貴は、昔から体が弱かった」
いきなり背後から声がしてびくっと肩が震えた。心臓が飛び出すかと思った。
恐る恐る振りかえると、男は私を見ていなかった。
髪で顔を隠すように足元のコンクリートへ視線を落とし、しばし沈黙する。
どこかで六時間目を告げるチャイムが鳴った。
やがて音が聞こえなくなると、それを合図に男、柴崎奏斗は自身の姉、真由の過去について語りはじめた。