ジェネシス(創世記)
ズボアは、ツルにも助けられた。彼女のもつ優しさ、亭主を思い慕う気持ちが、彼を強い男性に仕上げた。決して亭主を、見下したりはしなかった。褒め称えた。

ズボアが苦難にさしかかった時、愚痴を黙って聞いてくれた。良き相談相手にもなってくれた。二人の女性からの助言と心の支えによって、ズボアは多大な富を得るのであった。

「家、貧しければ良妻を思う(史記)」

「主」はそんな二人の女性を祝福した。オウミが亡くなると、ズボアは葬儀を盛大に行った。オウミを信頼する大勢の友人知人たちが、その死を弔うのであった。

 決断力の鈍いズボアは、照れ屋でもあった。ツルに「ありがとう」などの感謝の気持ちを、面と向かって発せれなかった。

強い亭主を目指し、貫録を示した。部下たちの前では、「社長」としての威厳を、風格(ふうかく)を見せつけていた。

 オウミの死後、ズボアではなく、ツルがこの会社を大きくした。ツルこそ本当の「社長」のような存在だった。

それだけ会社を取り仕切り、従業員たちからの信望は厚かった。それでもズボアは、偉ぶっていた。部下たちの前では、見栄を張っていた。ツルは、そんな亭主でも影ながらに褒めては引き立てていた。

 ズボアも年をとり、病に倒れた。もう寿命である。彼はベッドの上で、ツルや子供達に看取られながら他界した。とうとう一言も、ツルに対して思いやりのある言葉を投げかけることはなかった。
 
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