ジェネシス(創世記)
面を上げ、黙ってロムの遺体を改めて見た。

 槍に刺されて、木にぶら下がっているのはロムではなく、ウナクだった。ダデ国王は目を疑った。

ウナクはダデ国王を睨みつけ、不気味な笑みを見せつけた。口もとから、赤い血を流して笑っている。ダデ国王は頭を左右に大きく振って、正気を取り戻した。

それは幻であり、目の錯覚だった。ウナクではなく、その遺体はまさしくロムであった。

 ダデ国王を罰したのは「主」ではなく、ウナクの怨念だったのかもしれない。ダデ国王は息子の死を悼んだ。

自分の一時の欲情に駆られて、ウナクを殺害してしまった。その報いが、ロムの死をもって断罪された。ダデ国王は、ロムを泣きながら抱き締めるのであった。

「主よ。なぜ私をお見捨てになるのですか(詩編)。口は渇いて、素焼きのかけらとなり舌は上あごにはり付く(詩編)」

「主」が見捨てたのではない。ダデ国王自身が「主」を見捨て、見放したのだ。謙虚さを失ったダデ国王は、「主」を信ずる心を無くしていた。

ロムの死によって、しばらくの間は意気消沈する日々が続いた。国王としての職務を、こなすことはできなかった。


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