ジェネシス(創世記)
とある山奥の麓に、三0人ほどの部落があった。そこに、独学で司祭に合格した者がいた。リヤである。妻と幼い息子の三人家族だ。

彼らは、質素に暮らしていた。田畑を営み小麦や野菜類を収穫し、澄み切った川で魚を捕り、馬・羊・牛・鶏を飼っていた。井戸水も豊富に湧いていた。

炭焼き小屋では、木炭を作っていた。自給自足の生活である。週に一回、町まで取れ立ての野菜や燻製品やパンを行商し、それで生計を立てていた。

 司祭としての職務も、こなした。行商の合間をみて、民たちに「主」への信仰心を説いてまわった。リヤには特技があった。

怪力サムを見習い、整体師としての技量を磨いていた。医学・薬学にも精通し、民たちの病を治癒していた。そっちのほうで、商売が繁盛していた。

 けれども、そんなリヤにも持病があった。関節や筋肉の痛み、微熱、貧血などの症状を伴った「リウマチ」である。

今は軽症だが、そのうち手足などに関節が変形を起こすかもしれない。リウマチは女性に多い病なのだが、なぜか男性であるリヤが患ってしまった。

 雨が近いと節々が痛くなった。気象予報士みたいで、妻からは笑って重宝されていた。本人にとっては、笑い事ではない。さらに息子は、狭心症を患っていた。

 リヤは近くにある火山地帯、無料の露天風呂に浸かって英気を養った。この湯治場だけは、ハブ国王も知らない、部落の者しか知らない穴場だ。

風のない日に、くぼみのある場所に人が迷いこむと、硫化水素(H2S)によって、死者が出るほど危険性の高い場所だ。迷信深い民たちは、「悪魔が住む山」と噂して近づく者はいなかった。
 
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