ジェネシス(創世記)
マリーは妊娠し、家具職人である夫ゼフは仕方なく婚約した。いわゆる「できちゃった結婚」だ。世間体が悪すぎる。

ゼフは荒れ野に住む、セイ派の三人の神官に相談を持ちかけた。この時代、神官は四つの宗派から選出され、実に一二人もいた。

それも名ばかりで、司祭者が実権を握っていた。神官制度が廃止されるのも、時間の問題だ。

「我らのために救いの角を、僕ダデの家から起こされた(ルカによる福音書一)」

 過去に活躍したユダ人の司祭者たちや神官たちは、ダデ国王の子孫からメシア(救世主)の誕生を予言していた。

神官たちはいつまでたっても、メシアが登場しないので困惑した。ゼフがその子孫であることは、三人の神官は熟知していた。

 直系か否かは、不明だ。ユダ人の民に、それを証明するだけの家系図はもうない。あっても、偽造だと疑念を抱くであろう。

今までにも、偽者の「救世主」が大勢登場していたからだ。神官たちは考えた。「できちゃった結婚」の理由を逆手にとって、自分たちの手で、予言通りにメシアを作りだそうと画策したのだ。

 三人の神官は、マリーは「処女」で出産したことにしてユダ人をだますことにした。その相手は、「大天使エル」が身ごもらせたと、流布させた。まさに「神の子」である。

「彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない(ルカによる福音書一)」

紀元前六年頃、ローマ皇帝アウグスは、支配する全ての領地の住民たちに、出身地での住民登録を実施した。

ゼフと妻のマリーは、ナザレの町からベツレヘムへと強制的に向かわされた。大勢の民たちが、ユダの民族が移動を伴った。

 そのためベツレヘムの町は民にあふれ、ホテルや民宿はどこも満杯だった。二人は仕方なく、近くの酪農家に頼み馬小屋で就寝することにした。マリーが妊娠中だったので、農夫たちも断りきれなかったようだ。

「見よ、乙女が身ごもって男の子を産み、その名をインマヌエルと呼ぶ(イザヤ書七)」
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