ジェネシス(創世記)
イゼスが二0歳になった時だ。神官たちは、「契約の箱」から二枚の玄武岩の石板を見せた。本物のモズの十戒だ。それと、粗雑な紙で書き記された一二冊の「聖書」があった。

 契約の箱は、戦乱を逃れるたびに、神官たちの手によって何回も作り変えられた。守るべき大切な物は、箱でも石板でもない。「聖書」だった。

 二000年も経てば、紙の聖書からもっと優れた記憶媒体が作られるであろうと、イゼスは予言した。

その聖書が契約の箱に納められた時、全宇宙の遺伝子をもった「種子」となる。聖書が箱の中から発芽するというのか。

箱が細胞分裂を起こし、複製されるというのか。私は正直言って、イゼスが何を語っているのか良く分からない。

 イゼスは、近隣に住む女性ルミと恋に落ちた。心から愛し合った。イゼスは「救世主」という職務の重荷に耐えかねて、二人は山奥から逃げ出してしまった。

 旅の途中、イゼスとルミはノドが渇いたので仕方なく泥水を飲んでしまった。ルミは下痢を起こしたが、イゼスは何でもなかった。

イゼスは、断食を常に心がけていたから、空腹には耐えられた。しかし、ルミはイゼス並の修行は積んではいなかった。

 ルミがパンを食べても、イゼスは一週間以上も水だけで生きながらえていた。不思議である。

イゼスは水と空気だけで、窒素から「タンパク質」を作り出す特殊な細菌を体内に備えもっていると語っていた。そんな話は、信じられない。
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