ジェネシス(創世記)
セイ派の信徒たちは、イゼスを追いかけた。山・谷・川・丘を越えて、二人を探し求めた。

 それから二年の月日が流れた。インド西南部のある町で、家具屋の職人としてイゼスは働いていた。腕には自信があったようだ。貧しくとも、充実した生活だった。

 しかし幸せはいつまでも続かない。ある夕方、ルミが散歩しようと言い出した。二人が川岸を散歩していた時だ、イゼスの不安が的中した。

五人の山賊に襲われたのだ。金目の所持品はない。山賊はルミを拉致して、山の中へと連れ去ってしまった。

 イゼスは追いかけたが、血まみれの破れた衣服が、山道に残されていた。ルミのお腹の中には、子供が身ごもっていた。イゼスは泣き崩れた。全ての希望を失ってしまった。

「主」を欺き、民を欺いてまで救世主になろうとした罰だと悟ったのに違いない。イゼスは仕事を辞め、町を離れて一人放浪の旅に出掛けた。さらに東へと向かった。

 数日後、イゼスがある町の居酒屋で飲んでいた時だ。セイ派の三人が、イゼスの前に突然現れた。偶然を装うには、出来過ぎている。

まるであの町からずっと、イゼスの後をつけていたかのようだった。イゼスは渋々と説得され、山奥に連れ戻された。

 イゼスから、愛するルミが山賊に襲撃された出来事を聞かされた神官たちは、同情した。絶望の淵から立ち直るには、相当の年月を要した。

イゼスは周囲の人たちの励ましによって、精神的にも体力的にも元気さを取り戻していった。

ルミの死に報いるためにも、「救世主」となり、ユダ人のために尽くすことを誓うのであった。
 
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