ジェネシス(創世記)
「私を憎む者は皆、集まってささやき、私に災いを謀っています(詩編四一)」

 イゼスの布教も、そう長くは続かない。イゼスがユダの律法を乱したことで、サイ派が許さなかった。戒律を尊重しない者に、「救世主」として認めるわけにはいかない。
 
三月末、イゼスはロバにまたがりエルサレムに入城した。ここでも、ユダ人に対して布教活動を実施した。時にイゼスは理性を失ってしまい、市場で凶暴化することもあった。アヘンによる禁断症状が、現れたのであろう。

「私の岩よ、私に対して沈黙しないで下さい。あなたが黙しておられるなら、私は墓に下る者とされてしまいます(詩編二八)」

 異端児のイゼスは、サイ派にねらわれている。死刑であれば、十字架にかけられる。イゼスは、信者でもある議員のセフに、墓地の提供を懇願した。自分の死を悟り、岩穴を見つけては弟子たちに墓場を作らせた。

 夕刻、一二人の弟子たちと一緒に最後の食事を摂った。最後の晩餐(夕食)だ。しかしイゼスは、断食を続けている。木製の杯で、軽くワインだけ飲んだ。

「父よ、できることなら、この杯を私から過ぎ去らせて下さい。しかし、私の願いどおりではなく、御心のままに(マタイによる福音書二六)」

 その夜、イゼスはオリーブ山に登り「マネの丘公園」で祈った。心拍数は高まり、冷や汗は流れる。手や身体は震えている。

目はキョロキョロとして、落ち着きがない。「神の子」と言われても、しょせん人の子である。正直言って、死ぬのは怖い。
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