ジェネシス(創世記)
「主よ、どうか私を憐れみ、再び私を起き上がらせて下さい(詩編四一)」

 一一人の弟子は、エルサレムの町から人里離れたある山奥の小屋で、ある男性と出会っていた。男性はベッドの上で安静にして寝ている。

手首も足首も、左の腹部も傷口がひどくて動くことができない。針の太い注射器で、腕に抗生物質を打たれていた。辛うじて痛みだけは緩和されている。

 衰弱しきっているその人は、イゼス本人だった。イゼスは弟子たちに伝えた。新しい「主」の教えを、世界中の人々に布教するようにと命じた。

弟子たちは、師匠の言葉に従った。またヨダが死んだので、新たに信者を探し加入することを促した。

 そしてイゼスは、弟子たちに全てを託し、隠居生活を送るのであった。イゼスの使命は、これで終わりを遂げた。 

 全ては、イゼスによる計画的な犯行だった。イゼスは、セイ派の荒れ野にいたときから、神官たちと復活する計画を着々と練っていた。

自分をダデ国王の子孫だと信じさせること。マジックを駆使(くし)して救世主だと信じさせること。一二人の弟子を得ること。

弟子(ユダ)を使って、サイ派に自分の存在を知らせること。十字架にかけられて死ぬこと。裏口のある大きな墓を作り、自分が復活すること。そしてイゼスの教えを、弟子たちによって布教させることであった。

 十字架にかけられることは、確かに苦痛である。正直言って、怖い。寒暑にも耐えねばならない。断食をすることで、空腹に耐える訓練をした。ゆえに最後の晩餐では、ワインだけで済ませた。

 クイによる、激痛に耐える覚悟もしていた。アヘンを吸引することで、痛み止めとしていた。時に禁断症状も現れて、暴れることもあった。クイに打たれれば、細菌によって身体を損なう。ペニシリンは必要だ。

 三日間の勝負だ。うまくいけば、十字架から降ろされた後も、生き返る確率はある。両足が折られれば、死は確実だ。だからこそ、ヨフ議員に頼んで両足を折らせなかった。
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