ジェネシス(創世記)
父、いやイゼスを守るために転々と住居を変えて、今の洞穴に落ち着いた。私は、寝たきりのイゼスの看病に努めた。

ローマ人やユダ人に、この場所を知られるわけにはいかない。捕まれば、今度こそ処刑されてしまう。幸いにも、コウガ部族の護衛がついてくれた。

 数年も経つと、やせ細った病弱なイゼスには、当時の面影は全然ない。顔や姿を見ても、だれも本人だとは気づかなくなっていた。単なる寝たきりの、哀れな病人でしかない。

 イゼスは寝たきりではあったが、口先だけは達者だった。イゼスは私に、色々な知識や技術を授けてくれた。

「聖書」の教えの他に、マッサージの技術、細菌学、薬草学、特にマジックを教えてくれた。これらの習得により、収入を得ることができた。

単純なマジックは、子供たちから喜ばれた。私は義務として、イゼスの言葉をパピルスに書き残した。

 イゼスの、重みのある説得力に共感する人が増えてきた。イゼスは「相談業」をも営んだ。例え寝たきりでも、見事に仕事をこなし、私以上に稼いでいた。さすがに、イゼスは偉大な人だ。

 イゼスは、布教活動はできないが、一二人の弟子が代わって行った。祖母マリーも先頭切って活動をしていた。

弟子たちの布教によって、信者たちは世界各地に増えて行った。けれども、布教とは裏腹に弟子たちは命がけでもあった。

 石打ちの刑にあう者、X字型で磔の刑にあう者、生きたまま生皮をはがされた者、首を切断された者もいた。ぺトは、イゼスと同じ死に方はできないと申し立て、逆さで十字架にかけられた。

 予断だが、暴君ローマ皇帝ロネは、実母や妻を殺害した。紀元六四年のローマの大火災では、クリストス教徒に罪をきさせて処断した。

またコロシアム(闘技場)では、信者たちをライオンに食い殺させて、高見の見物を楽しんでいたようだ。

 アルマゲドン、「最後の審判」が下された。ユダ人は、ロネの名を隠語として「六六六」と名付けた。イゼスは、そう予言していた。
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