ジェネシス(創世記)
私には長男、次男、長女がいる。長男は、コウガ部族の護衛をしていた男の娘と結婚した。長女は、ヒンドス教のインド人の男性(後に、クリストス教に改心)と所帯をもった。

 次男はイゼスの意志を継ぎ、シルクロードや海路を通って「東の国」へ行くと言い出した。

その国は、黄金にあふれ、不思議な思想と優れた技術をもった民族が住んでいるらしい。イゼスは、なぜその国にこだわるのだ。何があるというのだ。「主」の思し召しなのか。

 私は、次男の信念を認めた。イゼスの死とは、別な意味で寂しくもあり悲しかった。ずっとそばにいて欲しい。まだ私に甘えて欲しい。おこずかいも渡したい。

一緒にビールを飲みかわしたい。キャッチボールもしたい。異国では、私が死んだ後、財産を相続させることもできないのだ。子離れのできない、哀れな父親だ。親バカと呼んでおくれ。

 私、妻、三人の子供たち、家族そろって食卓を囲みワインで乾杯した。最後の晩餐に酔いしれた。

次男ももう大人だ。成長したことを私は、喜ぶべきであろうか。親子で、聖書を作成したかった。

 もう二度と会えないであろう。別れは大変つらい。次男は無事に、「東の国」にたどり着けるのであろうか。

そんなある日、白い伝書バトが我が家に舞い降りた。次男からだ。そうだ、ハトがいれば手紙でやり取りはできる。

 いつまで続くか分からないが、できる限り連絡は取り合いたい。ハトがくる間は、少なくとも次男は生きている証拠だ。「主」よ、次男をハトを祝福して下さい。

 イゼスと過ごした、荒れ野にあったあの洞穴。私は、「書物」を守るためにあの洞穴を岩で封印した。

数百年後、数千年後でもいい、クリストス教の信者たちが、この洞穴を発見してくれることを、切に願うだけである。

「実に、神の国はあなたがたの間にあるのだ(ルカによる福音書一七)」

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