ジェネシス(創世記)
四人の食卓

私はアラブ系パレス人。イラム教徒だ。今、アメリカのヒューストンに住んでいる。アメリカは嫌いな国だけど、結婚を機に、アメリカに移り住むようになった。

今は、イラクの外交官だった亭主はもういない。私も年を取りすぎた、長くはない。若い時は、日本の新聞社に勤め、パレス支局で報道を担当していた。

 こんな家に一人で暮らすには、広すぎる。娘夫婦や孫たちが週末には遊びにきてくれるので、一応心は休まっている。報道精神がまだ、心のどこかでうずいている。

執筆活動をまた、やりたくなってきた。原稿を書く時間ならいくらでもある。私はまだ、元気だ。

 私の近所に、NASA(アメリカ航空宇宙局)の従業員食堂で働いているユダ人の友人が住んでいる。NASAで外科医をしている、日本人男性の紹介で知り合った。

友人とはなぜか、私たち家族と相性があった。ユダ人は嫌いだけど、その友人だけは別格だ。週末には、自宅でパーティーを何かと開いては交流を楽しんだ。

 友人の奥さんもユダ人だ。友人は愛する家族とともに、今幸せな生活を送っている。友人も自分の過去について、執筆を考えているようだ。

友人なりの「聖書」を自費出版したいらしい。けれども、過去の出来事を書くにしても、具体的な事実を思うように思い出せない。

 記憶を失う前に、アルツハイマー病になる前に書き残したいようだ。友人は、委託会社から完全に退職した。

今まで、正社員から嘱託社員、そしてバイトとして数十年間、NASAの食堂で働いていた。昔は、医師になる夢を抱いていたようだ。
 

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