ジェネシス(創世記)
この箱は、外観は新しく作り変えているが、内部は古い木材が使用されている。レバノン杉だ。「炭素年代分析法」で調べると、事実、四000年前の木材が一部使われていた。

 今まで、どこにこの箱を隠していたのだ。侵略者たちに略奪を繰り返されて、最終的には、ユダ人の手に戻ったはずだ。最後に引き取ったのはユダ人ではなく、多分セイ派のクリストス教徒だと推測する。

 その後、イタリアなどの教会に隠していたのであろう。司祭者を起こして、問い詰めるしか方法はない。とはいうものの、起こすのをやめよう。

白い布切れが入っている。「聖骸布」だ。血が付着している。これは、イゼス本人の血かもしれない。遺伝子を調べてみよう。一日で判定結果が出た。

私の「ミトコンドリアDNA」とイゼスのDNA配列が、完全に合致した。私は、イゼスの紛れもない子孫だった。司祭者のDNAとも一致した。彼もまた、イゼスの血を受け継いでいたのだ。

 あの本によるとイゼスには、息子が一人いて三人の孫がいたらしい。数人の護衛も付添っていた。次男が日本に訪れ、私の祖先となった。

長男は護衛の娘と結婚した。きっと司祭者のご先祖様であろう。長女は、インド人の男性と結婚したかもしれない。

 まて、その推理だと、乗船しているインド人は、イゼスの遺伝子を持っているということか。乗員全員とは言わないが、少しはイゼスの遺伝子を備えているのかもしれない。

 最初、血の濃さは薄いと思っていた。調べてみると、遺伝子が活性化されて、イゼスと私の血の色は濃くなっていた。次女の血を調べると、もっと遺伝子配列が近似している。

 司祭者は、全てを知っていたのに違いない。だからこそ、全員の医療記録を隠したのだ。医師としての守秘義務だと言って情報を開示しなかったが、単なる言い訳だった。「主」よ、私はあなたを崇拝します。あなたは私に、何を望んでいるのですか。

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