ジェネシス(創世記)
この肉体は、私一人だけの身体ではない、命ではない。彼らに感謝し、人類のために何らかの貢献をしなければならない。それが、私の生きる「理由」なのだ。

「主」よ、私に火星に降り立てと言うのですか。みんな放射線を浴びて、余命はないのです。火星に居住しても、まだ生存できる環境ではありません。「主」よ、答えて下さい。

 少し疲れた。船内を点検してから、しばし眠ろう。警報機のスイッチが「オフ」になっている。「オン」にしよう。

個人的な「聖書」もあと、一ページで完成する。痛み止めと睡眠導入剤を飲んで、チョッとだけ眠りにつきたい。

 自殺はやめよう。自殺は宗教上、禁止されている。「主」の前でも許されるものではない。「主」が求めたことは、私たちを神の国に移住させることだ。

どんな困難があろうとも、「試練」を乗り越えれば、きっと私たちを導いてくれるはずだ。

 まてよ、もしかしたら…。司祭者は遺伝子工学の専門家だ。人類の身体を、火星の環境に合わせる必要がない。

人類が、火星の環境に合わせればよいのだ。遺伝子配列を書き換えれば、自分は生存できなくとも、子孫たちが火星の環境に適応できるようになるはずだ。もしかすると、人類は火星に居住できるかもしれない。

 高齢の司祭者に、遺伝子配列を書き換えるだけの技術的能力があるだろうか。司祭者以外に、研究できる人はいない。

「救世主」が誕生すれば、できるかもしれない。今から基礎研究を始めても、数一0年を要するであろう。やっぱり無理だ。


< 326 / 375 >

この作品をシェア

pagetop