ジェネシス(創世記)
これらの三つの宗派は、常に争っていた。紛争を納めることができるのは、中立的な国しかない。宗教にこだわらない国、「日本」だ。

イゼスの孫息子に、使命を委ねた。せめて、ユダ人であるイゼスの遺伝子ぐらいは、日本人に残しておきたかった。そう、将来において「救世主」を登場させるためだ。

 そして念願の人類が、火星に到達した。火星に生命をもたらした。けれども、失望した。人類は火星を、公害や放射線汚染や産業廃棄物などで汚しただけだ。

私が求めた理想の世界ではない。よって火星には、単純な生物だけを存命させることにした。腐敗した人類と、私は契約を結ぶつもりはない。

 私は、「彼」と新たな「契約」を交えたかったが、私の力でも救うことはできなかった。それが「彼」の宿命だったのであろうか。

「彼」が生存していれば、火星に人類の居住を許していたことであろう。人類を滅ぼそうなどとは考えなかった。残念でならない。

 日本人の物理学者は、自殺を断念した。私は自殺を嫌う。それはそれで正しい判断だ。物理学者は、「彼」を方舟に乗船させるための単なる「付添い」だ。

方舟の設計は、だれでもよかった。他にも大勢いた。たまたま、「彼」の祖父が物理学者だっただけだ。

 しかも、座禅の修養を積んでいたため、「兄さん」のアカシック・レコードと同調しやすい体質となっていた。周波数が合致した。

そのため物理学者は、地球の内核に納められた、「前世の宇宙」から受け継いだ「古の契約の箱」の所在地を突き止めてしまった。

 箱と人類をつなぐ波長帯である、アカシック・レコードの正体までも悟ってしまった。学問への探求心が、強すぎたようだ。「全宇宙の記憶」を納めた箱。これ以上の秘密を、知られるわけにはいかない。


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