ジェネシス(創世記)
この秘密を知れば物理学者は必ず、悪用するはずだ。危険すぎる。未来を、大きく変えてしまう。

それゆえに私は、物理学者を方舟ごと、隕石で抹殺する手段を選んだ。私が「箱」の力を与える人物は、物理学者ではない。「彼」だけだ。

 方舟にある「新たな契約の箱」の中には、人類が今までに書き記してきた「聖書」が納められている。

「全宇宙」の歴史、記録、DNAが保存されている。宇宙が生まれ変わるための遺伝子をもった、種子なのだ。 

 地球の内核に存在する「古の契約の箱」とは、「前世の宇宙」から受け継いだ「記憶」だ。

方舟にある箱は、「来世の宇宙」を誕生させるための「新しい記憶」なのだ。これは、兄さんの遺伝子であって、私の遺伝子ではない。

 そうなのだ、火星に「契約の箱」はない。聖書に記憶をとどめてくれる、人類が存在しないからだ。

箱がなければ、生まれ変わっても火星は、生命に満ちあふれる世界を築くことができない。生まれ変わっても、また兄さんに頼らざるを得ない。

 私は方舟を爆発させたが、方舟に搭載されていた「新・契約の箱」は、まだ地球の周囲を回っている。

「物体」から「目に見えないエネルギー体」に姿を変えて、軌道上を周回している。人類の記憶は、ここで止まった。時に、二五二一年。

 この後は成り行きで、宇宙・地球・火星などが進化を遂げる。しかし「兄さん」が消滅しても、「新・契約の箱」のエネルギー体はまだ生き続ける。

「新・契約の箱」は、常に地球と一体なのだ。「箱」は、将来地球が消滅した時、完全に合体する。目に見えないエネルギー体として、霊魂のごとく、宇宙が終了するまで生き続ける。


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