ジェネシス(創世記)
ちょっとまて。何だ、どうした、何が起きたというのだ? 私の、愛すべき動物たちの行動がおかしい。私が選んだ、知恵を授けた「神の子たち」が、死に絶えていく。

 鯨やイルカたちが、海岸に打ち上げられている。だれか、海に戻してあげてくれ。母鳥が傷ついている。子鳥たちが飢え死にする。だれか、母鳥と子鳥たちを保護してくれ。

 馬の右足が骨折している。だれか治療して欲しい。犬たちが、ウイルスによって絶滅しかけている。だれか、ワクチンを投与してくれないか。山火事が発生した。だれか消してくれ。

 私には、守ることができない。私は無力だ。私が選んだ、愛すべき未来を築く、大切な命たちよ。

弱肉強食、台風、大陸移動、火山活動、地震、洪水などの自然災害ではなく、単純な出来事で、「私の子たち」は死に絶えてしまった。

 それは、火星に生存する生命たちの絶滅を意味している。子孫を繁栄させることが、できなくなった。火星は不毛の大地と化し、完全に生命は存在しなくなった。滅びてしまった。

 弱肉強食。動物たちは、相手を餌だと思って狩をする。食べることだけが、本能なのだ。でも、人類は違う。

むやみに動物たちを虐殺することもあれば、可愛さからペットとして、友として共存を図ろうと心掛ける。

 そうなのだ、人類が生存していれば、きっと動植物たちを救ってくれたはずだ。おお、私は人類を滅ぼしてしまった。人類の進化を許さなかった。

人類とは、時として必要悪な存在だったのか。私の判断ミスだ。「神の子」とは、人類にしか誕生しえないものなのか。

 火星に植物も動物も、みんな絶滅してしまった。新種のウイルスだけが、生存している。もし人類が生きていれば、絶滅を防げたはずだ。私は今、後悔している。

 この時代において、短い期間ではあったが、火星に生存する生命に終止符が打たれた。もう、生命体は存在しなくなった。


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