ジェネシス(創世記)
時にヤブーには、望郷の心が芽生えていた。父イクに会いたい。父はまだ生きているのであろうか。

兄エウは、許してくれるであろうか。会いたい。ヤブーは家族を連れて、ケインの土地に向かった。

 ある夜、家族たちが先に吊橋を渡り終えたとき、ヤブーと友人だけが川岸に残った。ヤブーは、渡る前に茂みで用を足していた。

排泄をすませて立ち上がったその時、突然、ヤブーの腰に激痛が走った。満足に立てない、歩けない。椎間板ヘルニア、腰痛だ。

 友人は慌てた。どうすれば良いのか、戸惑った。家族たちは、川岸の反対側にいて連絡がつかない。友人は、ヤブーの腰痛治療と格闘することになった。

 いつの時代でも、腰痛はあった。正式な治療法は確立されてはいないが、簡単なマッサージや整体療術はあった。友人は素人ながらも、整体治療に挑戦してみた。

 最初は川の水でタオルをぬらし、腰を冷やした。それから軽いマッサージを行い周囲の筋肉をほぐした。

そしてヤブーの腰を、チョットひねりを入れてコキッと鳴らした。一瞬にして、治癒できた。それまでの激痛が、ウソのように消えた。

立てる、歩ける。ヤブーは、生き返ったようだ。二人は喜び、抱き締め合った。顔を見合わせて、苦笑いをした。

「顔と顔を合わせて神を見たのに、なお生きている(創世記)」

 神官たちは、「アカシック・レコード」と接触し、民族の未来を悟った。それは嫡子エウの子孫ではなく、ヤブーの子孫によって繁栄がもたらされると、エウに告げた。

つまりそれは、民族の後継者は、ヤブーだということだ。「主」の御言葉には、逆らえなかった。

 エウは、弟ヤブーを素直に許した。神官たちの取り計らいによって、ヤブーとエウは再会した。エウは四00人以上を雇用する、酪農業の領主になっていた。

 イクの長男としての相続権はエウにあるが、「主」から認められる相続権はヤブーにある。

以来ヤブーの子孫は、「ラエル人(神と掴み争う人)」と呼ばれるようになった。そして三人の神官は、「主」の後継者であるヤブーとともに行動した。

「兄上のお顔は、私には神の御顔のように見えます(創世記)」

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