ジェネシス(創世記)
ゼフは、エジプトで奴隷として働いていた。ゼフは、それでも兄たちを恨まなかった、「主」を恨まなかった。

「主」から与えられた試練だと、自分にそう言い聞かせた。元々自分が出過ぎたために、兄さんたちから憎しみを買っていたのだ。敬っていなかった。自分の行いを悔い改めた。反省した。

 もうそれは過ぎた、出来事。今ゼフがすべきことは、この現状を克服し逆境からはい上がる工夫と知恵が、要求されることだ。それが幸運をつかむ道筋だと、言い聞かせた。

「いかなる教育も、逆境に及ぶことなし(ディズレリ)」

 侍従長ファルの下で、ゼフは会計士として財産管理を任されるようになった。奴隷の身分としては、異例の出世である。

知性と教養、学問に高じていたゼフにとって、それは適材適所であったようだ。しかしそれは、長くは続かなかった。ファルの妻ベセトが、ゼフを誘惑し始めた。

「汝、姦淫するなかれ(出エジプト記)」

 ゼフは誘惑を拒否したため、ベセトのプライドに傷をつけてしまった。逆に憎まれてしまった。ベセトは強姦されたとウソをついて、ゼフを投獄させた。

 ゼフはまた、試練に耐えた。これもまた、「主」から与えられた自分の運命だと悟った。むしろ逆境を乗り越え、思考力を一八0度転換させることで、ゼフは強くなっていった。

全て、前向きに明るく考えた。そう、いつでも自分には「主」が見守ってくれると信じていたからだ。信仰心だけは、捨てることはなかった。

「忍耐は、全ての扉を開く(ラ・フォンテーヌ)」

 ゼフは囚人として、簡素なピラミッド建設に労働させられていた。「ギザのピラミッド」を見習って、各地の王たちは真似をしていた。けれども、あれほどの幾何学技術は、どの国王も真似はできなかった。

 ゼフは過酷な肉体労働をこなしては、真面目に務めを果たしていた。囚人たちの世話もしていた。

ゼフの誠実な態度が、罪人といえども監獄長からは信用を得ていたらしい。監獄長からゼフに、囚人たちを統括・指導する役職を付与された。

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