ジェネシス(創世記)
火星から離脱(りだつ)した隕石には、火星のウイルスが付着(ふちゃく)していた。しかも真空(しんくう)の宇宙空間の中に放(ほう)り出(だ)されても、ウイルスは生(い)き続けた。高温・高密度・高圧力の中でも生(い)き抜(ぬ)いた。

 隕石群(いんせきぐん)は、火星の重力に掴(つか)まって宇宙空間を漂(ただよ)っている。時(とき)に重力から離脱した隕石は、長い歳月(さいげつ)をかけて旅を続け、地球に衝突した。

 ウイルスは、酸素を嫌(きら)う「嫌(けん)気(き)性(せい)の細菌」だった。火山帯(かざんたい)から発(はっ)する、硫化(りゅうか)水素(すいそ)(H2S)の中でも生きられる細菌だ。

宇宙を旅する隕石の中で、放射線を浴(あ)び、紫外線を大量に浴び、重力場(じゅうりょくば)にさらされることで遺伝子が突然変異を起こし、より強く耐(たい)性(せい)力(りょく)に優(すぐ)れた細菌に進化したようだ。

火星の隕石が地球に衝突した時、ウイルスは瞬時(しゅんじ)にして環境の変化に順応(じゅんのう)した。

嫌気性から、酸素を好(この)む「好気性(こうきせい)」の体質に素(す)早(ばや)く対(たい)応(おう)した。

 それは、地球の生物の進化においても多大(ただい)な影響(えいきょう)を及(およ)ぼした。その隕石が飛来(ひらい)するたびに、火星ウイルスによって生物のDNA(デオキシリボ核酸。

遺伝子の本体。細胞核に存在し、細胞分裂時にその情報の保存・複製に関与(かんよ)する働(はたら)きをする)の配列(はいれつ)が書(か)き換(か)えられた。

 火星からのウイルス、それは「主」から使わされた「神の子」だった。ウイルスに冒(おか)され、試練(しれん)に耐(た)え、生き抜いた生物だけが、どの種族(しゅぞく)よりもいち早く進化を遂(と)げるのであった。

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