sakura -サクラ-
両肩をつかまれて顔を覗きこまれた私は、咄嗟に何も言葉が出なかった。
何故って、こんな至近距離に他人の顔があるのなんて生まれて初めてで。
見知らぬ顔が視界いっぱいに飛び込んできたことにびっくりして。
世界から、音が消える。
声が出ない。
息も出来ない。
爽やかな、柑橘系の匂いがした、気がした。
「お姉さん?もしもし!?」
我に返った時私の目の前で、彼はひらひらと手を振っていた。
「…あっ、はい!」
「怪我は?」
「えっと…ない、ないです」
ろくに確かめもせずに答えてしまったけれど、男の人は目を伏せてほっとため息を吐いた。