sakura -サクラ-
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「……音、おーい雨音」
「えっ?あっ、はい!」
4時間目、数学。
数時間前の一部始終を思い返していた私は、寺島先生に当てられていたことにもしばらく気づかなかったようだ。
「どしたー今日は朝から変だな。体調悪いか?」
左手にチョークを持ったまま、先生は器用に頬杖をついた。
遮るもののないこの距離で、先生の黒いセルフレームの眼鏡にうっすらチョークの粉が付いてるのが見える。
「いえ、大丈夫です。すみません」
「ほんじゃ、問1黒板に」
はい、と返事して立ち上がった時隣から松本君の視線を感じたけれど、隣を見た時にはノートに問題を解いていた。