sakura -サクラ-
「伊達に15年、君のお兄サンやってませんよ」
ぽん、と私の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でる。
おっきくてごつごつしてるのに、お客さんを喜ばせるとっても器用な手。
「それに」
手はそのままに182cmもある長身をぐっと屈めて、目線を私に合わせる。
「さーちゃんは昔から、わかりやすいんだよ」
紗葉さんのケーキあるから、どっちか決めたら降りといで。
って言い残して先に降りてった紅兄が、今日はすごく大人に思えた。
ワンピースにしよう。
よし、とひとつ頷いて、私は自分の部屋のドアを閉めた。
これは、松本君と映画を見に行く日の前の晩の話。