sakura -サクラ-



「伊達に15年、君のお兄サンやってませんよ」



ぽん、と私の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でる。

おっきくてごつごつしてるのに、お客さんを喜ばせるとっても器用な手。



「それに」



手はそのままに182cmもある長身をぐっと屈めて、目線を私に合わせる。



「さーちゃんは昔から、わかりやすいんだよ」



紗葉さんのケーキあるから、どっちか決めたら降りといで。

って言い残して先に降りてった紅兄が、今日はすごく大人に思えた。



ワンピースにしよう。

よし、とひとつ頷いて、私は自分の部屋のドアを閉めた。



これは、松本君と映画を見に行く日の前の晩の話。



< 56 / 83 >

この作品をシェア

pagetop