sakura -サクラ-
「雨音さんはどこにした?」
「え?」
「高校」
松本君はにっこりと微笑んで、流れるような動作でアンダーリムの眼鏡を外した。
授業中しか眼鏡をかけない松本君の目は、少し色素が薄い。
それまで委員会でしか顔を合わせることがなくて、3年になって同じクラスになるまで気づかなかった。
「Eだよ、無難に。松本君は?」
「俺も」
そう言って松本君は、私の机の上にあるノートの切れ端をさっと取り上げてしまった。
「あ、それ…」
「先生に目ぇつけられちゃったな。ごめん」
それはそのまま松本君の学ランの胸ポケットに収まった。