sakura -サクラ-
自分でもどこを見ていたのかよくわからなくて、次に見上げた松本君の顔は不思議そうな、不安そうな、何とも言えない表情をしていた。
「あぁ…おはよう」
なんて、間抜けすぎやしないか私。
でも彼がにっこり笑って返してくれた“おはよう”に、なんだかちょっとほっとした。
「待たせてごめん」
そう言われて覗き込んだ腕時計が指すのは10時55分。
まだ待ち合わせ時間にすらなってない。
「全然、待ってないよ」
「けど俺の方が遅かったし」
まったく、なんてジェントルマン。
「行こうか」
そうして、私たちは歩き出した。