蝶々結び
「七星!」


母に呼ばれたあたしは、我に返った。


どうやって帰って来たのかわからないけど、自分の家の玄関に立っている所を見ると、自力で帰って来れたんだとは思う。


「あ、ただいま……」


あたしは反射的にそう返した後、いつもは明るい母が見せた暗い表情に気付いて不安を感じた。


「七星、あのね……」


「どうしたの……?」


恐る恐る尋ねると、母が口を開いた。


「これ……」


母は悲しそうな表情であたしを見ながら、封筒を差し出した。


封筒の表には、『七星へ』と書かれてある。


「何……?」


訊かなくても、わかっている。


授業中に見慣れた字…。


「上杉先生がさっき家に来て……。七星に渡してくれって……」


母の言葉で、あたしの頭の中に最悪のパターンが描かれた。


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