蝶々結び
小さな笑みを浮かべた上杉先生が、ゆっくりと口を開く。


「ありがとう」


先生が零した言葉は、たった一言だけだった。


だけど…


その五文字は、どんな言葉よりも創太に感謝の気持ちを伝えられる気がした。


彼もあたしと同じように感じたのか、小さく笑った。


「俺は別に大した事してへんで?上京したら良兄に会いたかったから、おばちゃんに電話して良兄の連絡先を訊いただけやし、七星の事はそのついでや」


一気にそこまで話した創太は、もしかしたら照れ臭さを感じていたのかもしれない。


彼は、タイミング良く運ばれて来たカプチーノを一口飲んで、窓の外に視線を向けた。


店内に流れるクラシックが、どこか不器用なあたし達を優しく包む。


今まで黙っていたあたしは、息を小さく吐いてから口を開いた。


「創太……」


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