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浴びせられた罵声に高島と呼ばれる男は首をかしげる。
「あれ…?1人で来いって言われたのに。」
小声で独り言を言うとまたその男は怒鳴った。
「自称関東最強、タ・カ・シ・マ!」
高島はまた少し首をかしげる。
「んなこと言ってねぇんだけどなぁ…。」
先ほどから困った顔ばかりしていた高島が、急にびっくりするほど笑顔になる。
「俺高島って名字キライなんだよね。稜って呼んでほしいな☆」
すると途端に鉄パイプ男が殴りかかってきた。
「え…停学とけたばっかなんだけど…。」
ざけんじゃねぇぞ!!と突進してきた男の鉄パイプが高島の頭をとらえた。鮮血がしたたり落ちる。が、男は突然ピタリと動きを止めた。その頭には高島の大きな手のひらが置かれていて男の動きを完全に止めている。
「なあ、オイ…。」
高島の目が変わった。
「名乗ってねえのになんでみんな俺の名前知ってるかわかるか?名乗ってねえのに、なんでみんな俺が関東最強だって言うか、わかるか…?」
「は、はあ?」
「それはな…誰もが俺を恐れ、その男に二度と関わるまいと名前を知りたがる。高島という名前の男に関わらないために…そして誰もが俺を関東最強だと思い込む。その圧倒的な強さにな…。」
鉄パイプ男は流れる冷や汗と恐怖心、手の震えに打ち勝って高島に殴りかかる。しかしその選択は誤りだった。一瞬のうちに男の体は遥か後方へ吹き飛ばされた。
「周りの評価が一番怖いってことだよ!」
ち、ちくしょーが!と残りの2人のうちの1人ががむしゃらに突っ込んでくる。
「気ぃ使ってやってんのによ!なんで俺がお前らの心配しなきゃいけねぇんだよ!」
その男も高島の足下へ消えた。
「うぉぁぁ!」
もはや恐怖で正常な判断がつかない不良達。
「お前らみたいなバカのせいで俺が停学食らったんだろーがよ!!!」
最後の1人も高島の目の前から沈んでいった。

 しばらく座り込んで上を見上げていた高島は自分が電車で遠路はるばる来たことを思い出した。「こんなとこまで来て友達になれませんじゃわけねーよな…。」
またしばらく沈黙の時が流れる。
「あ…電車…まだあるかな…。」
もうすぐ終点をむかえる時間なので、高島は急いで駅へむかった。もし、高島がこの電車に乗らなければ高島のケンカだらけの不毛な生活は終わらなかったかもしれない。
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