【詩集】吟遊詩人になる前に
『タイムマシン』
20年ぶりに

アナタの家に

行こうと思ったのは

実家に帰ったときに

アナタとやりとりしていた

手紙の束をみつけたからだ

僕の車を

タイムマシンにして

走り出す

あの頃…

高校三年生の僕を連れて

そうだ

夕陽の中を

アナタへの手紙を持って

僕は家を出た

そうだ

この海岸線の道を

アナタの家を目指して

自転車を漕いでいた

そうだ

アナタのことを

好きになったのは

生徒集会で司会をしている

アナタをみつけたから

よく響くアナタの声を

聞いたから

そうだ

この電話ボックスから

アナタの家に電話をかけた

そうだ

この看板の地図を見て

アナタの家を確かめた

そうだ

この坂道を登った先に

アナタの家はあった

タイムマシンで

辿り着いたその場所に

アナタの家は

なくなっていた

悲しいぐらいに

伸びた雑草が揺れていた

ここに

あの頃の僕が立っている

ここに

あの頃のアナタが立っている

ここに

あの頃の二人を残して

僕は帰ろう

ここから

タイムマシンに乗って

僕は帰ろう

未来のアナタの

幸せを願いながら…
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