仮想恋愛
十年間か、もう私も二十九である、派遣社員のバイトをして、結婚を夢見ている
が、特にこれまで決め手もなく何となく時を過ごしてしまっていた。


「どうですか、えー、渡井美紀さん、今オープニングキャンペーンで三十パーセントオフにしていますが」


 係りの若い、メガネを掛けた女が、私の書いたファイリングを手に話しかけてきて夢想を破った。


「ああ、そうですね」

 口上を述べていた男からは想像が出来ないほど、そのお店は明るい感じがし
た。


 黒い覆いがあるリクライニングシートが並び、一見するとまるでエステクラブのようにさえ見える。


 あれがさっきの男が言っていた機械か、試してみるだけでもいいかもしれない。


「それで値段はどれ位するんですか」


「一件につき三十万円になります」


「三十万!」


 そんなお金はとても払えない。


「すいません、私もう帰ります」


 私がそう言ってそそくさと椅子から立ち上がると、すぐに店の女が呼び止めてきた。


「待ってください、たった三十万でどの男と付き合っていいかがわかるんですよ、ろくでなしと十年付き合って人生を無駄にすることを考えたら、はるかに安い金額だと思いますが」


 確かにこの女の言う通りだ、だが三十万は高すぎるし、どう考えても詐欺の可能性が高い。


「でも三十万は大金です、それに十年間だけしか見せてもらえないんですよね」


「何言っているんです、十年間もですよ、知っていますか、愛は四年で終わるという言葉を」



「どういうことですか」


「女でも男でも愛情を感じるとき出ている脳内物質は長くても四年間しか持たないといわれています、要は四年経つとどれほど愛していたとしても、愛は醒めてしまうと言う事です、だから相性が大事なのです」


「でも、なんで十年なんですか」


「十年と言うのはひとつの目安です、どんな夫婦も愛が醒めてすぐ離婚と言うわけじゃありません、四年以上、五年六年と続くかもしれません。だが十年持つ夫婦はこの後も大丈夫であろう事が予想されるからです」


「はあ」


「疑っているのですね」
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