仮想恋愛
「あら、奥様、この前わたし、ご主人を見ましたのよ」


 私は近所のスーパーで知り合いの奥さんに話しかけられた。


 もう恭介と結婚して、五年の年月がたとうとしている。


「ああ、そうですか」


 そう言ってその場を足早に去ろうとする。


 正直この奥さんを私は好きではなかった、いや、好きな人なんているのだろう
か、近所のプライバシーを暴き、それを言いふらして悦に入る。


 私は一回だけだが、この奥さんが人の出したゴミをあさる所まで見てしまっていた。



「それでね、奥さん、私が見たとき、ご主人は若い女の人と一緒でしたのよ、会社の同僚でしょうかねー、いや、気をつけたほうがいいですよ、最近の女といったら……」



「失礼します」



 私はその女の御託を最後まで聞かずにその場を後にした。


 恭介が女と浮気、冗談じゃない。


 あんなに私の事を愛していると言っているのに。


 私は部屋に帰ってくると、乱暴に買い物袋を投げ出した、うそに決まっている、もしくは単になにかの用事で一緒に歩いている所を目撃しただけだ。


 ……でも本当だったら。


 そんなバカな、私は恭介のクローゼットを開けると、浮気の証拠を探して恭介の服のなかを探し回った。


 コートを放り投げスーツのポケットをあさり、当の本人に電話までした。
 だが、やはり、どこにも浮気の証拠なんてない。


「あはははは、冗談じゃないわ、あのくそばばあ、何が浮気よ、恭介に限ってあはははは」


 乱雑に散らかされた部屋で、私は一人笑っていた。
 すぐにそれは間違いだと思い知らされる事になるのだが。
< 3 / 13 >

この作品をシェア

pagetop