仮想恋愛
 誰かに依頼する。論外。


 事故死に見せかける、いや、それだと疑われる。


 だめか、どれも上手くいくような気がしない。


 私はベッドに寝転がった。


 いや待てよ……。

「いってらっしゃい、恭介、忘れ物はない」


 私は作り笑いをしながら、恭介に確認する。


 今日も恭介は返事もせず車で会社まで向かった。


 私はそれを確認すると優雅に朝のコーヒーを入れ、朝の道路情報をつけた。


「環状七号線は、八キロの渋滞……」


 高速道路は朝混むだろう、だが、夜には空くに違いない。


 成功するだろうか?


 一瞬不安も頭をよぎるが、もう考えても仕方がない。


 私はすでにやってしまったのだ。


 毒はキョウチクトウを使った。


 このかわいい花をつける樹木の主成分はオレアンドリンという猛毒で体内に入ると神経細胞の興奮、筋肉の収縮が起こり、心臓麻痺を起こすという。

 その毒はあの有名な青酸カリよりもはるかに強く、フランスでバーべキューをしていた連中はこの木を串にしてつかっていたところ、火に焼かれて主成分が染み出し、七人が死亡したらしい。



 当然それを燃やした煙にも毒は含まれている。



 私は薬草辞典片手に野山を歩き、それを見つけ、乾燥させた葉っぱを水に溶か
してタバコのフィルターにしみこましただけだ。



 恭介は一日に一箱タバコを吸う。


 そしてフィルターを強くかむのがくせだ。


 新婚当初は一生懸命止めたものだが今はそれが逆に私にツキをもたらしてい
た。


 毎朝新しいタバコを一箱開け、それを一日で吸い終わる。


 そのパターンがずっと続いている。


 そして、最後の二、三本は帰りの車の中で吸うだろうということだ。
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