仮想恋愛
 私は二本のタバコに毒を仕掛けた。



 そのタバコは箱に軽く糊付けして簡単には取れないようにしておく。


 そうすれば、最後にその二本が残るだろう。取りにくいタバコよりも簡単に取れるタバコから吸おうとするのは簡単に予想できる事だ。



 勿論詳しく検死すれば、毒殺だという事はすぐに警察には分かる。


 だが……。


 私はベッドに寝転がりながら、今日一日の恭介の行動を想像した。


 この部屋を出て出社までに、タバコを三本吸い、いつものように仕事をしながら十時の休憩で一本吸う。


 お昼休みは、きっといつものカレーライスだ、そこでも三本近く吸い、三時の休憩でも一本吸い、残ったタバコは十二本。


 夕方午後五時ぐらいに会社を退社して、そこで、四本近く吸いながらあの女の部屋に八時ぐらいに着くだろう。そこで残ったタバコは八本。


 女の部屋で、食事し二本、セックスをして二本、十時ぐらいに部屋を出て一本。


 その時残ったタバコは三本。


 その後、高速に乗って、タバコを吸いながらこの部屋に戻ろうとする。


 一本吸って次の一本をとろうとしたときに、恭介は最後の二本が箱から中々取れないことに気がつくかもしれない。


 あれ、タバコの紙の糊が箱に付いちまっているのか?


 もしかすると、そんな事を少しは考えるのかもしれない。


 それでも、少し、引っかくと軽く取れる。

 そして、そのタバコに火をつけて。


 そこまで考えた時。


 トゥルルルルル、トゥルルルルルと、部屋の電話が鳴った。
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