仮想恋愛
「はい、金子ですが」


「金子さんですか、お宅のご主人様の車が高速道路で事故に巻き込まれました」


「ええっ、なんですって、どういうことです」


 私は驚いたような声を上げた。何度もリハーサルした通りだ。


「それが、ご主人らしき車と、ワゴン車が高速で衝突しまして」


「なんですって、それで、それで、主人は無事なのでしょか」


「えー、現在、他の被害者と一緒に都内の病院に収容されています」


「容態は?」


 他の被害者?


「それはちょっとわかりません、病院の住所をお教えしますから、すぐに本人確認のためにも来ていただけますか」


「は、はい」


 私はタクシーを飛ばして病院に行くと、恭介はやはり死んでいた。


「奥様ですね、確認してください、恭介さんですか」


 白衣を着た医者が、白いシーツを剥ぎ取る。


 そこには、無残に変わり果てた恭介が横たわっていた。



「きょうすけー」


 それを見た瞬間、涙がボタボタと流れ落ちた。


 あれ、おかしいな、もっと冷静に演技する予定だったのに、涙なんか流す予定じゃなかった。


 耐え切れず、泣き崩れる。


 もう、演技なんかじゃなかった。


 恭介、なんで私こんな事をしてしまったんだろう。


 きょうすけぇぇぇー。


 私は、泣きながらその場を後にすると、熟年のカップルとすれ違った。


「ああ、こちら、ワゴン車に乗られていた、ご夫婦の親御さんです」


 刑事が紹介してくる。


「どうも」


 挨拶してくるのをかわして、軽く頭を下げると私はその場を足早に立ち去った。
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