イミテーション・リング
男は何も言わず、行き交う車の流れに添って静かにアクセルを踏む。
私も何も言わず窓の外を流れるイルミネーションを見つめていた。
しばらくすると、華やかな都心から閑静な住宅街に景色が移り変わる。
さっきまでの騒がしさが、嘘の様に静まり軒並みの所々でかわいいイルミネーションがクリスマスの到来を待ち望んでいるみたいだ。
住宅街を左折すると白いヨーロピアン風の建物が暗闇の中、淡いオレンジ色の光に照され陽炎の様に浮かび上がる。
男は何の迷いもなく、そのオレンジ色の光の中に入って行く。
迷いなんて、ある訳がない。
都心から少し離れたこのホテルこそが私と男の終着点なのだから…

いつもの様に男が先に車から下り、少し遅れて私が下りる。
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