あの頃の穴
トイレの右壁に肘を付き、溜め息をついた時ーバリバリバリッ!と壁が壊れた。 「ぁあああっ」 「…どうしたの里亜ちゃん!大丈夫?」 「ごごごめんなさい、体重かけたら壁が、壁が…」 若葉がトイレに行って見ると、人が通れそうな程穴が開いていた。 「ありゃりゃ…家古いからね。気にしないでいーよ」 「うう…ゴメン。ヤバイわぁ………ん?」 里亜は自分が壊した壁に首を突っ込んで覗いた。 「どうしたの?」 「…見覚えがある。どこで見たんだろう。真っ暗だけど、この感じ…」 「ええ?でもこれ、どこに続いているんだろう、まるで家じゃないみたい…」 「…行こう」 「どこへ?」 「この穴の向こうへ。靴を持ってね」 「なぜに靴?」 「夢では靴を持ってたんだ。きっと使うよ」 「夢でみたの?じゃあこの先に何が?」「そこまでは見てないんだけど、二人で、若葉ちゃんと行ったんだよ」 「夢で?…よし、行こう」 二人は靴を手に持ち、真っ直ぐには立てない程の高さの暗闇に入って行った。「里亜ちゃん、先何か見える?」 「いやまだなにも…結構長いね。でも確実にここ、若葉ちゃんの家の中じゃないね」 「そうだね…こんな抜け穴(?)があったなんて知らなかったよ」 「わかるわけないよね…あ!うっすら灯りが…」 その灯りに向かって進み、少し開いた扉にたどり着いた。その扉を開けると…薄暗いコンクリートの壁が見える。人の気配はなかった。二人は恐る恐る進んだ。「ねぇ里亜ちゃん、薬っぽい匂いがする」 「病院みたいだね」 さらに進むと、大きな二枚扉があったのだが、鉄格子と頑丈そうな鍵が見えた。「若葉ちゃんここ、精神病院だ…」 「え、本当?なんかコワいよ」 里亜は昔、こういう病院に入院していた祖母を見舞いに行った事があった。鍵を開けてもらわないと入れないのだ。不意に足音が聞こえ、二人は隠れる場所も見付からずはち合わせしてしまった。看護士だった。