あの頃の穴
「……」 心配はしていないようだ。 「ご飯だからね」 「…はい」 夕食を済ませ、部屋に入った。超現実的な場所で先程の夢かもしれない数十分の事を考えていた。 「きっと、若葉ちゃん家からは別世界に行けるんだ…うちにもないのかなぁ、抜け穴」 里亜はお風呂に入るついでに穴を探してみた。トイレ、洗面所、廊下…。 「何やってんの」 「お姉ちゃん!いや別に」 「テレビ見た?中井英郎(アーティスト)が死んだって。自殺らしいよ」 「え~…マジ」 里亜は特別ファンではなかったが世の中では若者のカリスマ的な存在で有名な人物だ。なぜかショックだった。死、死ぬとは?この世には、いない。里亜はブルーな気持ちで風呂に入った。 朝家を出て早々に若葉と落ち合った。 「里亜ちゃんおはよ~テレビ見た?ヒデオ自殺したね。後追いが増えるよ」 「なんかショックよ…それよりお父さんに怒られなかった?壁…」 「大丈夫。大工道具持ち出してきて塞ごうとするから釘は打たないでって言っといた」 「じゃあ…」 「また行けるよ」 学校では中井英郎の話ばかりだった。 「あたしヒデオ大好きだったのにー!でも絶対自殺なんてする人じゃない」 「謎の死って言ってたぜー。この間は追い詰められた政治家が自殺したしな」 「そういうニュースばっかだよなぁ」 「里亜ちゃんどうする?追跡」 「昨日の今日だし宿題もいっぱい出ちゃったし、今日はおとなしく帰りますか」「そうだね」 久しぶりに真っ直ぐ帰り部屋で宿題をしていた。夜七時になり里亜はストリートのテレビ番組を見るためリビングに行った。 トークコーナーから始まる。 『え~この間ですねぇ、中学生くらいの男の子とすれちがったんですけど、何か変だったんですよ』 『ほう、どんなところが』 『それがですねぇ、良く見たら靴履いてないんですよ。外ですよ!?しかも手にはしっかり靴持ってんのに』 『エラいど忘れだな』