あの頃の穴
「ん?」 『しばらく見てたら小学生の女の子が近付いて来て』 『靴履かないの?と』 『多分な』 「…えええ?」 まるで穴の向こうでの話にまさかとは思いながら若葉に連絡しようと携帯電話を取った。かける前にかかって来た。 「もしもしっ、テレビ見てた?」 「見てたよっ。あれまるであたし達みたいじゃん」 「私達だよ。だからさ!わかったんだ」 「何を?若葉ちゃん」 「全てはあの里亜ちゃんが開けたトイレの穴。家に入ったように見えた中学生、ギリギリで見失うストリート、みんなあの穴に消えて行ってたんだよ」 「??でもさ、あたしがぱっくり穴開ける前はどうやってストリート達はトイレから向こうへ?」 「それは…わかんない。あの人達はくぐり抜ける力があるのかも」 「…ストリートならそういう力ありそうだなぁ」 「もう少しだよ、会えるまで」 「うわぁ~すごい!」 電話を切った時にはストリートの番組はゲームコーナーになっていた。浜本と松田が自分達の話を(正確には男子中学生のだが)してくれた感動に里亜はしばらく浸っていた。若葉も同じく。小学生でいられるのも後少し。いい思い出になる……なんて、小さい事じゃなくなるなんて、二人は知る筈もなく……。