VS彼女
序章【雨の日に】
―――コンコンッ
その日は雨だったにも関わらず、薄暗い部屋の中にその音は妙に大きく響き渡った。
乾いたノックの音は、雨音に消される事なく俺の耳に届き、訪問者が来たと言う事実を伝える。
何分か前の大きな雷により、家の中の電化製品は使い物にならなくなっていた。もちろん、電気もつかないわけだから、今、俺の家の中は妙に薄暗い。
加えて、両親は仕事、妹は友達の家に止まっている。ペットのオレンジのトラ猫こと「アンチョビ」(いわしが好きだかららしい。正直どうでもいいが。)は昼寝中。よって、今は俺一人も同然なのだ。
そんな中に乾いたノックの音。自慢じゃないが俺はホラーは苦手な方だ。正直、この状況は死ぬほど怖い。どのくらい怖いかと言うと、たかがノック程度で体がビクリと震え、それから震えが止まらないくらい怖い。
「ベルくらい鳴らせよな……」
必死に平静を装う。誰も見ていないのに。
ベルを鳴らせ、とは言ったが、この雨の中ではウチのベルの小さな音はすぐにかきけされてしまう。ちなみに実践済みだ。雨の日はノックの方が聞こえやすい。
「誰だよ……こんな日に……」
恐怖をまぎらわす為に文句を言いながら玄関へ向かった。