VS彼女
ドアホールを覗き込むと、そこには、雨に濡れた一人の少女の姿があった。
白い肌にストレートの黒髪。誰もがみとれるように美しく、整った顔立ちは明らかに見覚えがある。

「……美波(みなみ)?」

つい一週間ほど前に付き合い始めた、彼女の姿がそこにあった。
何でこんな日に?来るなら連絡すればいいのに……。
そう思って、ドアを開けてやろうとかかったままのチェーンに手を伸ばす。その時。

―――コンコンッ、コンコンッ

ノックが静かに響く。

「秀(しゅう)、開けて」

美波の透き通るような小さな声が耳に入る。そこで、俺は何かを察知した。
様子が、おかしい。
何かがいつもと違う。何だ、この重々しい雰囲気は。

―――コンコンッ、コンコンッ

「開けて、ねぇ、開けて」

ノックの音と彼女の声が、再び響く。
それは脳内に直接響くような、不思議で奇妙なものだった。
理由もわからずに、手がガタガタと震える。足も、奥歯も、何もかもが震えていた。
ヤバイ。何だ、この雰囲気。
恐る恐るドアホールを覗き込むと、やはりそこには雨に濡れた彼女の姿。そして―――。

「う……うわぁぁぁああ!!!!」

反射的にドアから飛び退く。震える足では上手く立って居られず、俺はその場に倒れこんだ。
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